エモさは『演出』じゃなくて『事故』から生まれる
9/22 2025
カテゴリー:感情・没入・体験論編

1. TRPGにおける『エモい』って何?
まず、言葉の定義からはっきりさせておこう。 TRPG界隈でよく使われる『エモい』という言葉。これは『エモーショナル』=感情が揺さぶられる瞬間を指す。
もっと平たく言えば、
「なんかよくわかんないけど、泣きそうになった」
「言葉にできないけど、心が震えた」
そんな瞬間のことだ。
「演出がすごかったから」とか「ロールがうまかったから」というよりも、その一言、その行動、その沈黙が『心に残った』という感覚。
TRPGにおける『エモい』は、必ずしも「感動」だけじゃない。
切なさ、後悔、希望、寂しさ、怒り、安心感
そういう複雑な感情が、プレイヤー自身の心に『実感として』残る瞬間のことを、みんな口をそろえて『エモい』と一括りにしている。
2. 「ここ、泣くとこです!」はエモくない
TRPGに慣れてくると、誰もが一度はやってみたくなる。
「泣ける展開」「感動のロール」「劇的なラスト」
もちろん悪くない。それを目指して動けるのは立派な技術だ。
ただし、狙いすぎた『エモ演出』ほど、心に届かないものはない。
- 「ここは別れのセリフを言うべき」
- 「この瞬間、泣くと感動する」
- 「この流れなら絶対に盛り上がる」
構成としては完璧。
でも、『狙い』が透けて見えた瞬間、空気はちょっと冷める。
「泣かせにきてるな」ってバレたら、それはもうエモじゃない。
エモいは、『気づいたら泣いてた』からこそ成立する。
3. 偶然こそが、心を揺らす
じゃあ、エモいってどうやって生まれるのか。
結論から言うと、エモいは事故だ。
- ダイスで絶望的な失敗が出た
- 思ってもみなかったキャラの行動に感情が動いた
- 誰かの一言で、世界の意味が変わった
- ロストしたキャラの遺言が、まさかの伏線だった
これらは、誰も狙ってなかったのに『意味が生まれてしまった』瞬間だ。
これこそが、エモの正体。
エモいシーンを「作ろう」とするな。
「起きてしまったこと」に、ちゃんと心を動かせ。
その反応こそが、本物のエモを生む。
4. 『構成力』より『感受性』が鍵
構成が悪いとは言わない。演出も技術も大事。
でも、それらを支えるのは「ちゃんと感情が動いているかどうか」だ。
- セリフがうまいんじゃなくて、感情が乗っていたから刺さった
- 行動が合理的なんじゃなくて、心の震えを感じたから動かされた
- 落とし所がうまいんじゃなくて、「一緒に生きた」と感じたから泣けた
つまり、狙った『エモさ』より、感じた『エモさ』の方が遥かに強い。
5. 無理に『エモに寄せない』勇気も必要
「この展開なら感動するべきだ」
そう思って、『無理に』泣く、笑う、感動する。
それは観客用の芝居でしかない。
エモは『演出』じゃなく『反応』だ。
狙って出すものじゃない。事故で生まれて、後から意味がつく。
その偶然を、偶然のまま大切にできるかが勝負。
最後に
TRPGで心が震える瞬間は、たいてい「予定外」だ。
泣かせにきたNPCじゃなく、偶然重なった言葉の連鎖で涙が出る。
かっこよく決めたセリフじゃなく、震えた声の一言に胸を打たれる。
狙ったエモは、一瞬で忘れられる。
でも、事故の中から生まれた感情は、何年経ってもふと蘇る。
だから、構成に凝るのはいいし、演出もしていい。
でもその上で、「思わぬ感情に動かされた時、自分はどう応えるか」を大切にしてほしい。
エモは、設計図の中にはいない。 事故の中で、『ちゃんと心が動いた人間』にだけ訪れるものだ。
最終更新日:2025年9月22日