1. クトゥルフ神話TRPGが“拡大”した理由
クトゥルフ神話TRPG(CoC)は、ここ数年でTRPG界隈でも圧倒的な認知度と人口を誇るタイトルになりました。
その最大の要因は、やはりリプレイ動画文化の存在でしょう。
動画サイトでバズったセッションや、魅力的なPL・KPたちの存在によって、
「TRPGを知ったきっかけがCoC」という人は非常に多くなりました。
しかもそれらの多くが、“いわゆる神話的恐怖の探索”とは一線を画すものだったのも特徴です。
- 軽妙な現代コメディ
- 青春恋愛もの(通称“うちよそ”)
- 友情・感動・救済を描く物語
- ループものやサイコスリラーなどの派生ジャンル
このように、「神話存在が出てこないCoC」ですら、
ごく自然に、そして受け入れられる形で広まっていきました。
2. “クトゥルフ”という名前が持つ安心感
CoCというシステムは、現代を舞台にした汎用性の高いルールで構成されています。
それゆえ、ホラーじゃない物語をやるにも都合が良い。
さらに、プレイヤーの多くがルールや進行に慣れているため、
「新しいTRPGシステムを覚えてもらうより、CoCでやった方が話が早い」
という状況が生まれます。
たとえば──
- 「現代もので遊びたいけど、システム選びに困る」
- 「新規のPLがいるから、ルルブ所持率の高いCoCでやりたい」
- 「感情劇や人間ドラマを回したいけど、KP・PLの慣れを優先したい」
こういった背景から、クトゥルフ神話TRPGは“汎用システム”として扱われる傾向が強くなりました。
3. “何でもできる”からこそ、齟齬も起こりやすい
このような多様化・自由化は、個人的にはとても良いことだと思っています。
TRPGという文化の裾野が広がり、参加者が増え、遊びの幅も広がる。
これは界隈にとって間違いなく“プラス”です。
……ですが、その自由度が高まったからこその落とし穴も存在します。
- 「神話的恐怖と対峙するつもりで卓に来たら、青春群像劇だった」
- 「シリアスな雰囲気で進めていたら、片方はギャグテンションだった」
- 「PLは恋愛RPを期待していたが、GMは古典ホラーの予定だった」
どれも、“同じシステムで遊んでいる”のに、目的が全く噛み合っていない状態。
そしてその齟齬は、セッション中に埋めるのが非常に難しい。
時には空気が悪くなったり、「自分だけ浮いてる」と感じたり、最悪トラブルに繋がることもあります。
4. 多様性を守るために、最初のすり合わせを大事にしよう
「クトゥルフ神話TRPG」というシステムが“何でもできる”ものになってきた今、
最も大切なのは、“何をやるのか”を明確にすることです。
- この卓は“クトゥルフらしさ”を求めるのか?
- 神話生物は出てくるのか?
- 恋愛や関係性描写は歓迎されるのか?
- 感動展開や救済が前提なのか、それとも不条理に飲まれる覚悟がいるのか?
これはGMだけでなく、PL同士でも共有しておくべき感覚です。
「同じシステムを使っている=同じ遊びをしている」とは限らないからです。
最後に
クトゥルフ神話TRPGは、かつてないほど多様な顔を持つようになりました。
それはとても喜ばしい変化です。
でも、“多様になったからこそ、意思のすり合わせが前提になる”ということも、忘れてはいけません。
「この卓では、何をしたいのか」
「この物語に、どんな感情を持ち込むのか」
──その確認を、怠らないように。
それだけで、CoCの“自由で豊かな遊び方”は、もっと安全に、もっと楽しくなっていくはずです。
最終更新日:2025年5月18日