1. なぜ語りたくなるのか
TRPGをしていると、つい語りたくなる瞬間がある。セッションが盛り上がったあとや、エモい展開の余韻の中で、「実はこのキャラ、こういう設定があってさ……」と、つい話したくなる。
それは自然なことだ。キャラクターは自分で作り、何時間も一緒に物語を歩んできた存在。
ただの駒でも、数字の羅列でもない。そこに背景があり、感情がある。
その裏側を誰かと分かち合いたくなるのは、TRPGを本気で楽しんでいる証拠だと思う。
2. 語るときに、ひとつだけ意識したいこと
ただ、ここでひとつだけ、覚えておいてほしいことがある。
「自キャラの話をするのは自由だけれど、それを“聞く体験”として成立させるには、工夫がいる」ということ。
どんなに魅力的なキャラクターでも、どんなに練られた設定でも、相手にとっては“初めて知る話”であり、しかも“その場の流れとは別の話題”であることが多い。
問題は、「語ること」そのものではない。
“語りすぎてしまうこと”と、“その場の流れや他人の関心を無視してしまうこと”が、すれ違いの原因になる。
語らないという我慢ではなく、“語るための準備を整える”意識が大切だ。
たとえば──
・NPCとの会話の中で自然ににじみ出る一言
・仲間の問いかけに対する、さりげない返答
・事件や状況と、自分の過去が重なる場面での短い独白
そういった“必要性の中で生まれる語り”は、むしろ物語を豊かにする。それは「語り」ではなく、「演出」になる。
3. 相手の“知らなさ”への配慮
特に気をつけたいのは、「仲良くなったプレイヤー同士の深掘りトーク」。距離が縮まった相手には、つい「これは話してもいいだろう」と思ってしまうもの。
でも、ここにも一つ、見逃せない落とし穴がある。
「相手が、あなたのキャラをある程度知っているかどうか」という点だ。
相手がそのキャラを知らないまま、長文で設定を語ってしまうと──たとえ内容がしっかりしていても、相手には「重い話を一方的に聞かされた」という印象しか残らないことがある。
語る側が熱を込めれば込めるほど、“温度差”が生まれてしまう──これはTRPGではよくある現象だ。
だからこそ、以下のような姿勢がとても大事になる。
・まずは短くまとめてみる
・相手の反応を見る
・興味を持ってくれたら、少しずつ深掘りする
これはキャラ語りに限らず、人付き合い全般に通じることだけれど、「今この人は、それを聞きたい状態か?」という配慮は、思いやりの基本だ。
4. 語らなくても、伝わるものがある
最後に、強く伝えたいことがある。
「語らないこと=キャラが薄くなること」ではない。
むしろ、“語らない”キャラの方が、他のプレイヤーにとって「気になる存在」として映ることが多い。
「この人、何かあるな」「もっと知りたいな」──そう思わせることで、語る前からキャラの印象は育っていく。
そして、その“知りたい”が積もった後で語る一言には、ちゃんと重みが宿る。
セリフの量ではなく、語る順番とタイミング。それこそが、キャラの物語を“届く形”にする鍵だ。
● 最後に
TRPGは、「キャラを愛する遊び」であると同時に、「他人のキャラと物語を共有する遊び」でもある。
だからこそ、自キャラを大事に思う人にこそ、“届くように語る”という配慮を、ほんの少しだけ持っていてほしい。
それは、我慢でも遠慮でもなく、「愛を正しく伝えるための技術」だから。
語りたくなることは、誰にでもある。でも、その語りが“相手に届く”瞬間は、ちょっと間を置いて、ちょっと控えめにしてからの方が、美しい。
キャラは、動きの中で、感情の中で、関係の中で“見せる”もの。卓の中で息づいていれば、語らなくても、自然と伝わっていく。
だから、自キャラ語りに迷った時は、どうか思い出してみてください。
──語りすぎずとも、愛は伝わる。
最終更新日:2025年4月27日