クリティカルチケットという文化

カテゴリ:演出・美学・語り口編 / 筆者:キョロ

1. “クリチケ”という新しいルールのかたち

クリティカルチケット──通称「クリチケ」
クリティカルが出たとき、PLに渡される「もうひとつの選択肢」。 振り直し、追加成功、ダメージブースト、技能値上昇、情報の自動取得──その使い道は卓によって本当にバラバラで、 明確なルールに載っていない“ローカル文化”のひとつと言える。

もともとこれは、クリティカルの恩恵を後に“持ち越せる”ようにしたアイデア。 「今すぐ使いたくないけど、いい出目だったから何かにしたい」 という気持ちを形にした、とても合理的な工夫だった。

ぼく自身、GMとして導入してみたことがある。
そのとき、率直に感じたのはこれだった。

「処理が、めちゃくちゃ楽になる。」

2. けれど、“演出の温度”は一段階下がる

便利な一方で、どこか“気になっていた”部分もある。

クリチケを渡すと、クリティカルはその場で“使われず”、 「いつか便利に使えるリソース」になってしまう。

こうした流れは決して悪くない。
ゲームとしての戦略性もある。
でも、どこかに──
「今、奇跡が起きた!」という空気が薄まっていく感覚も、否めなかった。

クリティカルは本来、偶然の力が物語を動かす“熱量”の瞬間だ。
それが、“あとで好きなタイミングで使える券”になることで、 場の空気としての“祝福感”がスライドしてしまう

3. それでも、ドラマが生まれることがある

とはいえ、PLとして他の卓でクリチケが導入されていたセッションに参加したとき、 「これはいいな」と思った瞬間が、たしかにあった。

シリアスな場面。緊張感のある選択。 いよいよ決断しなければならないというタイミングで、 一枚のチケットを手のひらで見つめてから、使う。

そのとき、こう思った。

「ああ、これ、“誰にも知られてない希望”みたいで、いいな」と。

たとえば、

みたいな演出と合わせれば、
“切り札を切る”ドラマとして、確実に物語に厚みを持たせられる。

それができれば、クリチケはただの“チートアイテム”じゃない
感情を乗せられるリソースになる。

でもそれは、相当な演出スキルと空気読みが必要だ。
──正直、上級者テクニックの領域だと思う。

4. 扱い方次第で、“空気を削る”か“物語を支える”かが決まる

だからぼくは、クリチケ文化を完全に肯定はしていない。けれど、完全否定もしていない。

これは、「使い方」の問題だ。

この辺りを意識できると、
クリチケは“ゲーム性を高めるツール”でありながら、ちゃんと“物語に染みこむ道具”にもなりうる。

そして何より、誰もがシナリオの“進行補助”ではなく、“演出支援”として使えるようになったとき、
この文化は一段階上の成熟を迎える
のだと思う。

● 最後に

クリティカルチケットは、便利だ。
でも便利さには、空気を平坦にする力もある。

だからこそ、それを扱う人が“感情”と“物語”の視点を忘れなければ、
それはプレイに“余白と余韻”を与える道具にもなりうる。

“使わなかったクリチケ”が、最後までポケットに残っていた──
そんなプレイが成立するなら、きっとそれはすばらしい。

投稿日:2025年5月8日
最終更新日:2025年5月8日

▶ 次はこちらの記事もおすすめ


X ポスト